column コラム
2024.04.01
不動産×相続の知って得するニュース⑦~より利用しやすくなった相続時精算課税制度~
より利用しやすくなった相続時精算課税制度
こんにちは。SAKURA財産形成承継の大原です。
不動産と相続に関する知って得するニュース。今回は、相続税対策の定番である生前贈与に関連して「相続時精算課税制度」について取り上げてみます。
贈与が行われたとき、贈与された財産には贈与税がかかります。税金を払うのは贈与を受けた人(受贈者)です。
贈与税の計算と納税は基本的には毎年行うことになっており、これが「暦年課税方式(制度)」と呼ばれるものです。
暦年課税方式では、受贈者一人当たり一年間に贈与を受けた合計額が110万円(基礎控除)を超えると、超えた部分に相続税よりもきつい累進税率で贈与税がかかります。
そもそも贈与税は、資産を生前贈与することで相続税の課税を逃れようとする行為を防ぐという意味で、相続税を補完する役割を果たしています。
贈与税においては、暦年課税方式の特例として「相続時精算課税制度」と呼ばれる方式が2003年1月から導入されています。
人口の高齢化が進む日本では、親世代が多くの資産を保有しており、それを教育費やマイホーム資金などを必要とする子世代にスムーズに移転することが目的とされます。
「相続時精算課税制度」には、いくつかのポイントがあります。
まず、暦年課税方式では毎年、“受贈者”ごとに累進税率で税額が計算されますが、相続時精算課税制度を選択すると相続発生までの間は、“贈与者”ごとに2500万円までの贈与は非課税、2500万円を超える部分は一律の税率(20%)で課税されます。
その代わり相続時精算課税制度では、贈与者が亡くなって相続が発生した時、受贈者ごとに亡くなった贈与者から生前に贈与された財産と相続した財産を合計し、それを基に相続税を計算します。そして、相続税額からすでに納めた贈与税相当額を控除して納税することになります。もし、すでに納めた贈与税のほうが多いとき(控除しきれないとき)は超過分が還付されます。相続が発生した際に、それまでの贈与税と相続税を計算し、精算するというわけです。
相続時精算課税制度は誰でも利用できるわけではありません。60歳以上の父母や祖父母(贈与者)から18歳以上(2022年3月31日以前の贈与により財産を取得した場合は20歳以上)の子や孫(受贈者)に対して財産を贈与することが条件です。
また、“贈与者”ごとにこの制度を選択することを税務署に申告する必要があり、その後は暦年課税方式に戻ることはできません。
この相続時精算課税制度の一部が2024年1月から改正され、以前よりも生前贈与において格段に利用しやすくなりました。
どこが利用しやすくなったのでしょうか。
第一に、以前は“贈与者”ごとに2500万円までが非課税でしたが、2024年1月からは2500万円とは別に、暦年課税方式と同じく年間110万円の基礎控除が毎年、認められます。つまり、2500万円の非課税枠を使い切る前でも、使い切った後でも、毎年110万円の基礎控除までの贈与は申告や納税の必要がありません。
しかも、相続時精算課税制度における年間110万円の基礎控除までの贈与は相続が発生した時、相続財産に加える必要もありません。これに対し、暦年課税方式の場合は年間110万円以下の贈与でも相続開始前7年以内の贈与は生前贈与加算の対象になり相続財産に加算されます。
従来に比べてメリットが大幅に拡充されたといっていいでしょう。
ただし、相続時精算課税制度を選択した“贈与者”から年間110万円の基礎控除を超えて贈与を受けた分は、従来と同じく2500万円の特別控除の枠内でも贈与税の申告が必要であり、また当然、相続の際には相続財産に加算して相続税が計算されます。
また、これは以前と同じですが、相続時精算課税制度によって自宅の敷地などをまとめて生前贈与すると「小規模宅地等の特例」の適用が受けられなくなります。生前、亡くなった人(被相続人)が居住の用に供していたことという条件を満たさなくなるからです。
さらに、贈与税や相続税の計算もより一層、複雑で難しくなります。
今回の見直しをどのように活用するかは、専門家などと相談しながら慎重に進めることをお勧めします。
図表 改正後の「相続時精算課税制度」の概要
非課税枠 | ①贈与者ごとに2,500万円まで ②2024年1月1日以後の贈与については相続時精算課税制度の適用者(受贈者)が特定贈与者(親、祖父母)から受ける毎年110万円以下の贈与については申告不要 |
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贈与財産 | 現金・不動産・有価証券など種類を問わない |
贈与者 | 60歳以上(贈与の年の1月1日現在)の親および祖父母 |
受贈者 | 18歳以上(贈与の年の1月1日現在)の贈与者の子および孫 ※2022年3月31日以前においては20歳以上 |
税率 | 2,500万円を超える部分に対して一律20% |
手続き | ①贈与額が非課税枠(2500万円)以内であっても贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に申告が必要(相続時精算課税制度における110万円の基礎控除分は除く) ②特定贈与者が亡くなった時点で、生前に贈与された資産(相続時精算課税制度における110万円の基礎控除分は除く)と相続した資産を合わせて相続税を計算し、生前に支払った贈与税額を控除する(控除しきれないときは超過分が還付される) |
その他 | 暦年課税方式とは贈与者ごとに選択適用できるが、いったん相続時精算課税制度を選択すると暦年課税方式には戻れない |