column コラム
2023.06.19
不動産×相続の知って得するニュース①
相続で持て余している土地を国が引き取ってくれる?いよいよ始まった「相続土地国庫帰属制度」
こんにちは。SAKURA財産形成承継の大原です。
今回から随時、不動産と相続に関する知って得するニュースについて取り上げます。
今回は2023年4月27日から始まった「相続土地国庫帰属制度」についてです。
国の統計によれば、相続税がかかった財産のうち3割ほど占めるのが土地です。その中には親の自宅(実家)の土地がかなり多く含まれることは容易に想像できます。
ところが地方の実家を離れて都市部で生活している人(相続人)にとって、実家の土地は扱いに困る財産でもあります。
「地理的に遠く利用する予定がない」「空き家にしていると近所に迷惑がかかる」「かといって維持管理が大変」といった声をよく聞きます。地方の農地や山林なども同じように持て余すケースが増えています。
そのため日本全国で「所有者不明土地」がどんどん増えています。その面積はなんと国土全体の20%、約410万ヘクタールにものぼり九州(367.5万ヘクタール)を上回るという推計もあります。
国ではこうした問題を少しでも解消するため、様々な対策を講じ始めています。そのひとつが、一定の要件を満たせば相続した土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする「相続土地国庫帰属制度」です。いわば、相続したけど持て余している土地を国が引き取るというのです。
この制度の運用が2023年4月27日からスタートしました。過去に相続した土地についても対象になります。これまでにない画期的な制度である「相続土地国庫帰属制度」のアウトラインを確認しておきましょう。
手続きの流れは4ステップ
「相続土地国庫帰属制度」を利用して土地を手放すには、次のように4つのステップがあります。
このうちポイントになるのは後でも触れますが、国に引き取ってもらえる土地には一定の要件があり、なんでもかんでも手放せるわけではないことです。意外にこのハードルは高く、相続前から準備しておく必要があります。
もうひとつのポイントは、承認を受けたとしても一定の負担金を納める必要があることです。負担金を納めてはじめて相続した土地は国庫に帰属します。
「相続土地国庫帰属制度」の手続きの流れ
ステップ1 承認申請 | 相続等によって土地の所有権または共有持分を取得した者は、法務局に対して、その土地の所有権を国庫に帰属させることについて承認を申請する。なお、申請時には土地一筆当たり1万4000円の審査手数料が必要。 |
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ステップ2 要件審査・承認 | 法務局は承認の審査をするために必要と判断したときは、職員による調査を行う。そして、通常の管理や処分をするよりも多くの費用や労力がかかる土地として法令に規定されたものに当たらないと判断したときは承認する。 |
ステップ3 負担金納付 | 土地の所有権の国庫への帰属の承認を受けたら、30日以内に所定の負担金を国に納付する。 |
ステップ4 国庫帰属 | 負担金を納付した時点で、土地の所有権が国庫に帰属する。 |
引き取ることができない土地とは?
国が引き取ることができない土地の要件については法律(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)で定められています。
具体的には、そもそも申請をすることができないケース(却下事由)と、申請することはできても調査の結果、承認を受けることができないケース(不承認事由)があります。
簡単に言えば、「却下事由」は資料等で比較的容易に判断できるケース、「不承認事由」は現地で詳しくチェックが必要なケースといえるでしょう。
国が引き取ることのできない土地の要件(概要)
申請をすることができないケース(却下事由) | 承認を受けることができないケース(不承認事由) |
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A 建物がある土地 B 担保権や使用収益権が設定されている土地 C 他人の利用が予定されている土地 D 土壌汚染されている土地 E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地 | A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地 B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地 C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地 D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地 E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地 |
申請にあたって必要な添付書類が結構、面倒!
この制度の第3のポイントは、申請にあたって必要な添付書類が結構、面倒なことです。添付書類には、すべての申請者が必要なもののほか、申請者のタイプによって追加で必要なものがあります。
申請にあたって必要な主な添付書類
全ての申請者が 添付必須の書面 | (1)承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面 (2)承認申請に係る土地と当該土地に隣接する土地との境界点を明らかにする写真 (3)承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真 (4)申請者の印鑑証明書(市区町村作成) |
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遺贈によって土地を取得した 相続人が添付必須の書面 | (5)相続人が遺贈を受けたことを証する書面 具体例: ・遺言書 ・亡くなった方の出生から死亡までの戸籍全部事項証明書、除籍謄本又は改製原戸籍謄本 ・亡くなった方の除かれた住民票又は戸籍の附票 ・相続人の戸籍一部事項証明書 ・相続人の住民票又は戸籍の附票 ・相続人全員の印鑑証明書 |
承認申請者と 所有権登記名義人が 異なる場合に 添付必須の書面 | (6)土地の所有権登記名義人(or表題部所有者)から相続又は一般承継があったことを証する書面 具体例: ・亡くなった方の出生から死亡までの戸籍全部事項証明書、除 籍謄本又は改製原戸籍謄本 ・亡くなった方の除かれた住民票又は戸籍の附票 ・相続人の戸籍一部事項証明書 ・相続人の住民票又は戸籍の附票 ・遺産分割協議書 |
任意で添付する書面 | ○固定資産評価証明書 ○承認申請土地の境界等に関する資料 |
気になる負担金の額は最低20万円
この制度の第4のポイントは、承認を受けた後、30日以内に負担金を納める必要があることです。負担金を納めなければ承認は取り消されます。
負担金は、元々の土地の所有者が土地の管理の負担を免れる程度に応じて、国に生ずる管理費用の一部を負担してもらうためのものです。
その金額は、国有地の管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して算定した額とされています。具体的には、承認を受けた土地がどのような種目に該当するか、またどのような区域に属しているかによって異なり、最低でも20万円かかります。
負担金算定の具体例
宅地 | ・面積にかかわらず20万円 ・ただし、都市計画法の市街化区域または用途地域が指定されている地域内の宅地については面積に応じて算定 |
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田、畑 | ・面積にかかわらず20万円 ・ただし、以下の田、畑については面積に応じて算定 ア 都市計画法の市街化区域または用途地域が指定されている地域内の農地 イ 農業振興地域の整備に関する法律の農用地区域内の農地 ウ 土地改良事業等の施行区域内の農地 |
森林 | ・面積に応じて算定 |
その他 | ・面積にかかわらず20万円 ※雑種地、原野等 |
なお、図表にある「負担金の算定式」は土地の種別によって決められており、例えば宅地については次のようになっています。
宅地の負担金の算定式
面積区分 | 負担金額 |
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50㎡以下 | 面積(㎡) × 4070円 + 20万8000円 |
50㎡超100㎡以下 | 面積(㎡) × 2720円 + 27万6000円 |
100㎡超200㎡以下 | 面積(㎡) × 2450円 + 30万3000円 |
200㎡超400㎡以下 | 面積(㎡) × 2250円 + 34万3000円 |
400㎡超800㎡以下 | 面積(㎡) × 2110円 + 39万9000円 |
800㎡超 | 面積(㎡) × 2010円 + 47万9000円 |
これによると、たとえば市街化区域にある200㎡の土地であれば、
200㎡ × 2450円 + 30万3000円 = 79万3000円
となります。
これは日本全国一律であり、地価の安い地方ほど負担感は大きいでしょう。
申請先・相談先を確認しておこう
申請先は、帰属の承認申請をする土地がある都道府県の法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門(登記部門)です。地方法務局の支局や出張所では受付てもらえません。
また、制度の利用に関する相談も全国の法務局・地方法務局(本局)で受け付けています。相談の場合は、承認申請する土地がある都道府県でなくても可能です。
なお、承認申請を行い審査が完了するまで、具体的にどれくらいの期間がかかるのかについて、法務省のホームページによると、本制度が過去に例のない新しい制度であることや、制度開始当初は調査に時間を要する可能性があることから、しばらくの間は受付後、半年~1年程度の期間が掛かるものと思われる、としています。