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2024.09.17
井上一生の相続よもやま話④ 利害関係をシンプルにする ~ 非上場の自社株(2)

SAKURA United Solution代表の井上一生です。私は税理士ですが、自分自身の相続において様々な苦労をしてきました。そうした相続体験とそこから得た気づきをこれから随時、コラムでお伝えしてきたいと思います。

第4回目は、「利害関係をシンプルにする」として、前回に引き続き非上場の自社株のケースを取り上げます。


前回は、非上場の中小企業や同族企業であっても自社株が分散しているケースが多いこと、そのため相続にあたってはいろいろトラブルになりやすいことを取り上げました。

対策としては、分散している株式の所有者と話し合い、買い戻すことが一番ですが、実際にはうまくいかないこともあります。

そうした場合、株式をなかなか売ってくれない少数株主から強制的に株式を取得し、特定の株主が持ち株比率を100%にするため「スクイーズアウト」という呼ばれる手法があります。

スクイーズアウト(Squeeze Out)とは「押し出す、絞り出す、締め出す」といった意味の英語で、企業経営の分野では事業継承や完全子会社化を目的としたM&Aを行う際、少数株主から強制的に株式を買い取ることを指します。

株式発行数の多い上場企業においては、大株主と少数株主の意見が対立することはよくあります。そうした場合、少数株主の同意を得ることなく、金銭を対価として株式を強制的に買い取ることができるのが「スクイーズアウト」なのです。そして、この方法は中小企業や同族企業でも使うことができます。

会社法においては具体的に、「特別支配株主の株式等売渡請求制度」「株式併合」「株式交換」「全部取得条項付種類株式を用いる方法」の4つの手法があります。

「特別支配株主の株式等の売渡請求」は、株主総会における総議決権の90%以上を保有している者(特別支配株主)が、株式を発行した会社の承認(取締役会の決議)を得た上で、他の株主から株式を取得する方法です。株主総会の決議を経ずに少数株主から強制的に株式を買い取ることができます。

この方法のメリットは、株主総会での決議などの必要がなく手続きがシンプルであり、比較的短期間(株式取得日の20日前までに特別支配株主から売渡請求があった旨を通知することが必要)で完了できることです。

「株式の併合」は、数個の株式を1株に併合し、株式数を減らす方法です。例えば、併合比率が50:1であれば50株が1株になります。その結果、50株未満しか保有していた株主は1株未満の端株しか持たないことになります。端株では株主総会での議決権行使などの権利がなく、この端株を会社が買い取ることによって少数株主を排除します。

ただし、株式併合をするためには株主総会で3分の2以上の特別決議が必要です。また、単元未満株の買取金額は裁判所によって妥当性が審査されるので慎重に決める必要があります。

「株式交換」は、親会社が子会社を完全子会社化する際、子会社の株主に親会社の株式を交付することです。

ただし、これだけでは子会社の少数株主は親会社の少数株主になるだけなので、スクイーズアウトのため親会社の株式を株式併合する方法を合わせて行います。

また、2007年に会社法が改正されて可能になった「現金対価株式交換」という方法もあります。これは株式交換において、親会社が子会社の株主に親会社の株式ではなく金銭を対価として交付するもので、実質的には株式を取得できるためスクイーズアウトに利用できます。

「全部取得条項付種類株式」は種類株の一種で、株主総会の特別決議によって強制的に買い取れる株式のことです。

全部取得条項付種類株式を用いたスクイーズアウトでは、発行済みの全株式を全部取得条項付種類株式に変更した上で、少数株主の保有株を強制的に買い上げます。少数株主をスクイーズアウトした後は、残った株式を普通株式に戻します。

この場合も株主総会で3分の2以上の特別決議が必要です。

いずれにしろ、非上場企業で株式の持ち合い株の比率が2分の1以上や3分の2以上あっても、少数株主が経営陣などの主要な株主に対して非協力的であれば、当然円滑な経営は行うことができません。特に中長期の新規事業展開やリスクのある投資をする場合はなおさら、少数株主の存在が障害となることがあります。

そのため経営陣や支配株主は、場合によってスクイーズアウトの手法によって少数株主を排除し、経営のリーダーシップが行える体制を築くことがかかせません。そうしなければ、会社をバトンタッチされる経験値が少ない後継者に大変な苦労を与えることになります。

会社のバトンを手渡す側には、スムーズにバトンを受け取ってもらえるような体制整備が当然の義務といえるでしょう。持株比率100%であれば、すべての経営の意思決定を自由に行えます。

まずは話し合いを重ね、それでも難しい場合にはスクイーズアウトを上手に活用してみてください。

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