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2024.09.02
井上一生の相続よもやま話③ 利害関係をシンプルにする ~ 非上場の自社株(1)

SAKURA United Solution代表の井上一生です。私は税理士ですが、自分自身の相続において様々な苦労をしてきました。そうした相続体験とそこから得た気づきをこれから随時、コラムでお伝えしてきたいと思います。 第3回目は、「利害関係をシンプルにする」として非上場の自社株のケースを取り上げます。


相続で大事なポイントになるのが、「財産を受け継いだ相続人が苦労しないようにすること」であり、そのために欠かせないのが「利害関係をシンプルにする」ことです。

前回はそうした利害関係のひとつとして借地・底地を取り上げました。今回のテーマは非上場の自社株です。

非上場株式とは、証券取引所に上場していない株式のことで、通常は中小企業や同族企業(※)の株式を指します。非上場株式は不特定多数の投資家が自由に売買できる市場がないため流動性がほとんどなく、市場価格も存在しません。

逆に、非上場企業は株主と経営者が一体であるケースが多く、業績に関して株主から追及されたり、第三者に株式を大量に買い占められてしまうリスクが低いというメリットがあります。また、上場企業のように有価証券報告書などの提出義務もありません。

※ 「同族企業」とは法人税法において、上位の3株主の持ち株比率が合計で50%を超える企業のことです。また、似た言葉に「同族株主」がありますが、こちらは国税庁の財産評価基本通達において、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が評価会社の議決権総数の30%以上(株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が50%超である場合には、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいいます。「同族関係者」とは配偶者と6親等内の血族、3等身内の姻族などです。

ただ、非上場とはいえ株式会社はそもそも複数の株主がお金を出し合ってひとつの事業を目論むための法人であり、複数の株主がいることが前提となっています。

また、事業を立ち上げ、成長発展させることは生易しいことではありません。事業を展開していく上で、資金調達で何度も苦労することがあります。成長戦略としての共同経営や、資金調達のために外部から出資を受け、創業者やその同族以外に株式が分散しているケースがほとんどであると言えるでしょう。様々な利害関係者と協力しながら進めていくのが企業経営ですから、その途中で株式が分散するということは至極当然のことと言えるかもしれません。

ただ、株式の分散が将来のどのような面倒なことになるのかと言うことはあまり知られていません。

例えば、創業時は会社経営に協力してきた兄弟姉妹も、代替わりして子ども・孫世代になると疎遠になり、株式保有の権利主張を強めてくることがあります。相続人の1人が実質的な承継者として会社経営を引き継ごうとしても、他の相続人(株主)が経営方針に異を唱えてくるのです。本音ベースでは「所有する株式を高額で買い取ってほしい」と思いつつ、株式を保有し続けようとする相続人もいます。

法定相続人に該当するわけではありませんが、創業時に出資し、共同経営者として経営に携わったりした関係者が亡くなり、面識がない人が相続で株式を所有しているケースも少なくありません。

オーナー系の中小零細企業の場合、会社そのものが相続の対象となる財産です。株式会社という財産を相続するにあたっては、なるべくその株式は分散させず、集中させた方が良いに決まっています。

後継経営者にとって扱いやすいですし、それ以前の様々な人間関係なり葛藤なりというものを引き継がなくてすみます。

つまり、取引相場がない非上場株式の相続におけるトラブルを根本的に解決するには株式の100%所有が一番です。

そのためにどうすればいいのでしょうか。ひとつは話し合いによって株式を買い戻すことです。お互い、円満な解決が図れます。

私も経験があります。自分の会社を立ち上げた際、複数の方に出資を仰ぎましたがその後、順次、その株式を買い戻し、2022年に私はほとんどの株式を私一人に買い戻すことができました。

しかし、一人だけどうしても買い戻しに応じてくれない人がいました。その人は特に資金繰りが苦しかったときに100万円を出資金として融通していただいた方です。その後も「私が出資して成功しているのは井上さんぐらいしかいない。唯一の成功者とであると言える。私はあなたの株式を持っていたい」と言ってくださいました。

とはいえ、こちらとしては大問題です。その方は70歳を超えていて、もし亡くなるといろいろな問題が出てきかねません。譲渡制限が付いている株なので、まったくの他人に渡るということはないのですが、私の代できれいにしておきたいと思いました。そのため何度もお願いをして交渉したのですが、そのたびに断られていました。

ところがあるとき、その人と同じ年代の歌舞伎俳優が亡くなり、その人は相当なショックを受けたのでしょう。急に向こうから連絡があり、「あなたの言い値で売りましょう」ということになりました。もちろん、すぐ手続きさせていただいたことはいうまでもありません。

こうして現在、私の会社の株式は私が100%保有しています。次の代に株式を譲るにしても、株主間での色々な綱引きはなく、シンプルに会社を譲ることができるようになっています。

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