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2024.08.16
井上一生の相続よもやま話② 利害関係をシンプルにする ~ 借地・底地

SAKURA United Solution代表の井上一生です。私は税理士ですが、自分自身の相続において様々な苦労をしてきました。そうした相続体験とそこから得た気づきをこれから随時、コラムでお伝えしてきたいと思います。第2回目は、「利害関係をシンプルにする①」として借地・底地のケースを取り上げます。


前回は相続対策で最も重要なことは、「財産を受け継いだ相続人が苦労しないようにすること」だと申し上げました。私の考えでは、これに続いて重要なのが「権利関係をシンプルにする」ということです。

この2つは実は密接に関連しており、相続の対象となる「権利関係をシンプルにする」ことで「財産を受け継いだ相続人が苦労しないようにすること」が可能になります。

さて、相続でよく問題になる権利関係のひとつが借地・底地です。

そもそも土地は所有権の対象となり、それぞれの土地の所有権を持つ人(所有者)が自分の判断でその土地に建物を建てたり、売ったりすることができます。法律上、「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。」(民法第206条)と規定されています。

借地・底地とは、ひとつの土地における所有権を「借地(しゃくち)」と「底地(そこち)」に分け、それぞれ別の人が権利を持っている状態です。

「借地」は他人から借りている土地のことで、具体的には「借地権」という権利があります。これは土地を借りた人(借地人)が、その土地に建物を建てるなど土地を一定の範囲で利用できる権利です。

一方、「底地」は、借地権が設定されている土地のことです。底地の所有者(地主)は、その土地を自分で使うことはできませんが、借地人から地代を受け取ったり、借地契約の更新、借地上の建物の建て替え、借地権の譲渡などにあたって承諾料を請求できます。

日本全国で借地・底地はそれほど多いわけではありません。データは少し古いですが、平成20年の『住宅・土地統計調査』によると、主世帯(4960万世帯)のうち敷地が「所有地」である世帯で全体の58.5%,「一般の借地権」である世帯が2.4%でした。ただ、東京など都市部ではこの割合はもう少し高いと思われます。

実は、私の父親が残した財産の中にも借地がありました。母親に聞いたところ「もともとの土地の所有者(地主)にお金を貸した代わりに土地の借地権というものを手に入れた」ということでした。

その借地権を相続した私は、借地人として底地を持っている地主との関係を否応なく引き継ぐことになりました。借地権は土地そのものではありませんが、土地を利用することのできる権利として相続税の課税対象になります。しかも、その相続税評価額は自用地(所有権)に対して50~90%の割合とかなり高いのです。

しかし、借地を第三者に売却する場合はそんな価格では売れません。底地も同じです。ひとつの土地における所有権を借地と底地に分けて別々の人が権利を持つと、市場での取引価格が大幅に下がってしまうのです。

そもそも借地人と地主の関係はいろいろないきさつが絡んでおり、感情的なもつれにもつながりやすく、こういう財産の残した方はいけないのです。できれば当初の借地人と地主が生きている間に、どちらかが相手の権利を買い取ったり、逆に自分の権利を売却したりして、処理しておくべきだと思います。

私のケースも、母親から聞いたのは「お金を返せなかったために借地を受け取らざるを得なかった」ということですが、そんないきさつが代々受け継がれるはずもありません。「借金のかたに借地の権利を譲った」などという恥ずかしい話を自分の子ともに伝えるわけがないからです。

底地を持っている人(地主)としては、経緯はどうだったとしても借地人に対して借地を返してほしいという思いがずっとあるはずです。それは当然のことです。しかし、借地人のほうとしては、借地借家法という法律によって借地権(普通借地権)はほぼ自動的に更新されるようになっており、先ほど触れたように相続の際には市場価格を上回る評価額がつき、税負担が重くなりがちです。

私の場合、「なんだか中途半端な財産を引き継いでしまった」という思いが長年あり、もやもやしていました。それが数年前、地主から底地を買い取らないかという話があり、ようやく解消することができました。

かつて、不動産鑑定士に底地の価格を聞いたことがあります。不動産鑑定士によれば、「我々が合理的に底地の買い取り値段をつけたとしても、売ってもらう人と売ってあげる人の意識の差が大きく、合理的な値段で売買できるケースばかりではない」ということでした。

「売ってもいいよ」「是非とも買いたい」「じゃあ、売るよ」という流れの中における力関係などで値段は変動するというわけです。

お付き合いがある相続と不動産の専門コンサルタント会社、株式会社ザイアスの水口日慈社長からは、「底地の地主から売ってもいいよといわれたら、半分目をつぶってでも受け入れるべきだ」というアドバイスも受けていました。

私はその言葉が耳に残っていたので、地主から言われた高額の値段を受け入れることにしました。確かに高い買い物でしたが、父親が半端に残した相続財産を整理ができた、という達成感があったのも事実です。

こうした経験もあって、相続財産を残す人が心掛けるべき相続対策の第二優先は、複雑な利害が入り組んだ土地・建物に関しては、片方に寄せるべきだということを私はいつも申し上げています。

みなさん自身が借地・底地を持っていたり、自分の親が借地・底地を持っていた場合は、早めに利害関係をシンプルにできないか考えてみるべきだと思います。

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