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2024.06.17
不動産×相続の知って得するニュース⑨~相続関係者に認知症の人がいた場合の対応~

こんにちは。SAKURA財産形成承継の大原です。
不動産と相続に関する知って得するニュース。今回は、相続関係者に認知症の人がいた場合の対応について考えてみます。


認知症はすでに1000万人?

社会の高齢化が進むにつれて深刻になっているのが認知症の問題です。

認知症とは、アルツハイマー症や脳出血、脳梗塞などによって記憶障害や失語、失認、失行などの症状が現れ、日常生活に支障をきたすようになった状態を指します。

現在、日本全国にどのくらい認知症の人がいるのか、詳しい統計データはありません。

10年以上前になりますが、厚生労働省が公表した推計によると、2012年時点で65歳以上の高齢者における認知症患者の数は約462万人、高齢者人口に占める割合は15%でした。また、2025年には730万人、65歳以上に占める割合は20%になるとされています。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ninchisho_kaigi/yusikisha_dai2/siryou1.pdf

認知症の発症率は年齢が高くなるほど高まることが知られており、同じ厚生労働省の資料によると70代の後半では男性が12%で女性が14%、80代後半になると男性が35%で女性が44%、90代後半になると男性が51%で女性が84%の割合で発症するといいます。

さらに最近、民間の研究機関による新しい推計が発表されました。

それによると認知症総数は2020年に964万人であったものが、2070年には2828万人へ、男女とも3倍ほど増加するとしています。

また、2040年には65歳以上の高齢者層の46.3%が認知症となる可能性があるとされています。

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=75566?site=nli

これから誰しも身近に認知症の家族がいるという時代になるのは間違いないでしょう。

認知症になると相続にも問題が発生

認知症になると日常生活に支障が生じるだけでなく、民法上では「意思能力のない者」として扱われます。

「意思能力」とは、契約を結ぶなど自分が行う法律行為の結果を判断することができる精神的能力のことで、民法に明文の規定はありませんが7歳から10歳程度にあたる能力とされています。そして、「意思能力がない者」が行った法律行為は無効となります。そのため、相続に関係しても様々な不都合がでてくるのです。

まず、本人が生前、認知症で意思能力がない状態になると基本的に「不動産の売買」「遺言書の作成」「生前贈与」などの相続対策が行えなくなります。

ただ、実際に認知症かどうかの判断は難しく、普段は普通に話ができるけれど、タイミングによっては怪しいといったことがあります。そういう場合には、事前に医師の診断書を取り、かつ司法書士など専門家同席の上で手続きをするなど慎重を期す必要があります。

一方、相続人の中に認知症の人がいる場合については、相続財産(遺産)をどのように分けるか相続人が話し合う遺産分割協議が問題になります。

遺産分割協議が成立するには相続人全員の合意が必要です。一人でも認知症の人がいると遺産分割協議は難しくなります。

その場合、相続財産は基本的に相続人全員の共有のままとなり、「小規模宅地等の特例」などの適用が受けられません。結果的に、相続税の負担が増す可能性があります。

また、共有となった不動産を貸すのであれば、民法上「共有物の管理」として共有者の過半数の賛成が必要です。さらに共有となった不動産を売却するとなると、民法上「共有物の変更」にあたり、共有者全員の同意が必要です。相続人の中に認知症の人がいると、そうした扱いもしにくくなります。

対策としては成年後見制度や家族信託の利用を検討

本人が認知症になったり、相続人の中に認知症の人がいる場合、どのような対応策が考えられるのでしょうか。

ひとつは、「遺言」の利用です。本人の意思能力がしっかりしているうちに、将来の遺産分割について本人の意思を遺言で示しておけば、遺言の内容に従って相続が行われます。「小規模宅地等の特例」などの適用も問題ありません。

もうひとつは、民法上の「成年後見制度」を利用することです。関係者が家庭裁判所に申し立て、成年後見人をつけることで、認知症になった本人の代わりに法律行為を行うことができます。相続人の中に認知症の人がいる場合であれば、成年後見人がつくことで、遺産分割協議に参加したり、不動産の売却にあたって本人の代わりに合意することも可能になります。

ただし、成年後見人は本人(意思能力のない者)のために判断し、行動することが求められ、遺産分割協議においては法定相続分を下回るような合意はできないとされます。また、遺言は本人しか行えない身分行為とされており、成年後見人が本人に代わって遺言を作成することはできません。

なお、成年後見人は家庭裁判所が決めますが、弁護士など専門職が選ばれることが多く、毎月3万~4万円程度の報酬が本人(意思能力のない者)が亡くなるまで続きます。こうした費用負担の問題などもあり、成年後見制度はあまり利用されていないようです。

もうひとつの選択肢として、「家族信託」を利用することも考えられます。

「家族信託」は一般的な呼び方法律用語としては「民事信託」といいます。仕組みとしては2007年に改正された新しい信託法に基づき、親と子など家族の間で信託契約を結び、財産の管理等を任せるものです。詳細については別の機会に譲りますが、やはりメリット、デメリットの双方があり、成年後見制度と同じでまだ広く利用されるまでには至っていません。

今後、相続に関連して認知症が様々なトラブルの原因になると思われます。もし関係者が認知症になったとき、どのような問題が起こり、どう対応すればいいのか、予めよく考えておく必要があります。

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