column コラム
2024.07.16
不動産×相続の知って得するニュース⑩~相続税の申告漏れなどの調査について~
こんにちは。SAKURA財産形成承継の大原です。
不動産と相続に関する知って得するニュース。
今回は、相続税の申告漏れなどの調査についてです。
国税庁では毎年、相続税の申告漏れなどについて「相続税の調査等の状況」というレポートを公表しています。令和5年12月に令和4事務年度版が公表されたので、その内容をみてみましょう。
相続税の申告漏れなどに対して国税庁では、「実地調査」と「簡易な接触」という2つの対応を行っています。
「実地調査」とは、税務署が集めている資料情報などから申告額が過少であると想定される事案や、申告義務があるにもかかわらず無申告であると想定される事案等に対して行うものです。
令和4事務年度においては、実地調査件数は8196件(対前事務年度比129.7%)で、うち申告漏れ等の非違(※)件数は7036件(同127.2%)、追徴税額合計は669億円(同119.5%)といずれも増加しました。
※非違(ひい)とは法令に違反すること。
税務署では実地調査に入る前に入念な下調べをしているといわれ、それだけに実地調査件数に対する非違件数の割合は85%にもなります。
一方、軽微な申告漏れや計算間違いがある申告を是正するため、文書、電話による連絡や来署依頼による面接などによって行われるのが「簡易な接触」です。
税務署も人手が不足する中、適正・公平な課税の確保のため、効果的・効率的な手法として用いられています。
令和4年事務年度において、こちらの接触件数は1万5004件(対前事務年度比101.9%)、申告漏れ等の非違件数は3685件(同101.3%)、追徴税額合計は87億円(108.3%)でした。
接触件数に対する非違件数の割合は25%ほどにとどまります。
コロナ禍においては政府による外出自粛要請などの影響で「実地調査」も「簡易な接触」も大幅に減少しました。しかし、感染状況が落ち着いてきた一昨年あたりから元に戻りつつあります。
いまや個人の金融資産は2000兆円を超えています。そして、世帯主の年齢が60歳以上の世帯がそのうち6割超を保有するといわれます。
人が亡くなると必ず生じるのが相続であり、昨年の死者数は159万人と過去最多を更新しました。これからますます相続税に関わる調査等は強化されていくといっていいでしょう。特に国税庁では近年、富裕層の税務調査に力を入れており、全国12の国税局にそれぞれ特別チームを置いています。
これに関連して注目されるのが、海外資産の扱いです。富裕層の中には海外に資産を所有していたり、国内から海外へ移したりしているケースが少なくありません。以前であれば国税庁も富裕層の海外の資産状況までは直接、調べようがないため手が出せませんでしたが、ここ数年で状況は大きく変わってきています。
例えば、2013年から始まった「国外財産調書」制度です。年末時点で海外に5000万円超の財産を持つ人は、その国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した「国外財産調書」を翌年の6月30 日までに提出しなければなりません。
あるいは、「CRS(共通報告基準)」と呼ばれる国際的な取り組みがあります。これは、約100カ国・地域(アメリカは除く)が参加し、各国の税務当局が持つ非居住者(その国の国籍等を持たない外国人等)の預金や有価証券の残高、利子・配当の年間受取額、マイナンバーといった情報を互いに提供するものです。
2014年に経済協力開発機構(OECD)で創設が決まり、日本でも18年から運用が始まっています。
こうした仕組みによって富裕層が海外に所有する資産についてもかなり把握が進んできているようです。
ただ、国税庁によれば、令和4年分(令和4年12月31日時点)の「国外財産調書」の提出状況は、 総提出件数が1万2494件、総財産額は5兆7222億円でした。
一方、令和4事務年度に国税庁は日本居住者の「CRS」情報約253万件(個人口座約250万件、同残高約10.9兆円)を95か国・地域の外国税務当局から受領しました。
両者を比べると5兆円を超える差があります。その中には、当局が把握できていない資産があるのかもしれません。
ちなみに、令和4事務年度版の「相続税の調査等の状況」によれば、海外資産に係る申告漏れ等の非違件数は174件(対前事務年度⽐151.3%)、海外資産に係る申告漏れ課税価格は70億円(同125.2%)と意外に少ない印象です。
国税庁では今後、相続税に限らずこうした海外資産についての調査を強化するものと思われ、新たな動きとして注目されているのが、「財産債務調書」制度の拡充です。
従来、この制度では毎年12月末に所得2000万円超で国内外の資産が計3億円以上あるか、国外転出時に有価証券1億円以上を保有する場合に提出する義務がありました。それが23年分からは、国内外の総資産が10億円以上なら所得にかかわらず調書の提出が必要になっています。
例えば資産家の夫を亡くした高齢の妻、申告所得を少なくするため海外資産を使って損益通算をしている富裕層など、所得要件をなくしたことで対象者は従来に比べ増える可能性が大きいとされます。
改めて、相続税を含めて税金については基本的な知識を持ち、制度の見直しについては最新情報を確認しつつ、事前の準備と適切な申告が大切だと思います。